こんにちは! 松竹ブロードウェイシネマ新人女子部員のYuriです。ブロードウェイミュージカル初心者の私が、ミュージカルや演劇の素晴らしさについて気ままに発信! 今回は『ビリー・ホリデイ物語 Lady Day at Emerson's Bar & Grill』で描かれるアメリカ社会の芸能界における人種差別について。ビリー・ホリデイがFBIから歌うことを禁止された理由について注目です。
カバー画像:『ビリー・ホリデイ物語 Lady Day at Emerson's Bar & Grill』より ©Evgenia Eliseeva

松竹ブロードウェイシネマ新人女子部員ブログ『マイブロードウェイ』。洋楽・ミュージカル映画好きなアラサー女子がミュージカルについて気ままにおしゃべり。歌やダンス、演技や衣装などなど…心躍るミュージカルの世界に没頭していきます。

(続き)歌が危険? その意味とは?

「奇妙な果実」

この5文字を目にしてどんなことを思い浮かべるでしょうか。

このタイトルの楽曲こそ、前編で取り上げた禁じられた歌です。

ビリー・ホリデイをご存知の方ならその意味を知っているかと思いますが、この曲は黒人虐殺の残酷な情景や悲痛な人種差別の実態を歌ったもので、その強烈なメッセージ故に、連邦捜査局(FBI)から禁じられていたのです。

「Southern trees bear strange fruit,…(南部の木々には奇妙な果実がなる…)」という歌い出しに続くのは、リンチに遭い木に吊るされた死体から血が流れ落ちる、という残酷過ぎる描写。当時の人々はその痛烈な歌詞に衝撃を受けながらも、彼女の勇気ある行動を讃え「奇妙な果実」は一躍世間から注目を集め、ビリー・ホリデイの代表曲になりました。

また、この曲はニーナ・シモンやダイアナ・ロスをはじめ数多くのアーティストが演奏したことでも有名で、昨今のBLM運動の激化により現代でもラッパーやR&Bシンガーたちがカバーしていることで再び注目を集めています。

まさに世代をも超えるプロテストソングでありますが、50年以上経った現代でも人種差別の実態が変わっていないことに憤りすら覚えます。

『ビリー・ホリデイ物語 Lady Day at Emerson's Bar & Grill』

©Evgenia Eliseeva

ビリー・ホリデイにとってこの曲は自身のステージで欠かせない曲となり、いかなることがあっても歌い続けようとし、常にひとりで政府と闘っていました。

しかし政府は国民の意思を助長させる危険性がある、と歌が持つ力を恐れ、ビリー・ホリデイから歌うことを奪います。このことは映画『ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ』(2022)でも真っ向から描かれています。

また、当時ジムクロウ法(人種隔離政策)によってレストランのトイレやエレベーターは黒人と白人で分けられていました。その差別で受けたストーリーをビリー・ホリデイはユーモアを交えて話すシーンがあるのですが、当時の悲惨な人種差別の実態に胸が痛くなります。

ビリー・ホリデイに関するお話はもっとたくさんあるのですが『ビリー・ホリデイ物語 Lady Day at Emerson's Bar & Grill』で観客に伝えたいメッセージは、何よりもこの“歌の力”だと私は思います。

オードラ・マクドナルドさんは、ビリー・ホリデイの心でもある「奇妙な果実」を怒りを込めているように、叫ぶように歌います。

ビリー・ホリデイという勇敢な一人の女性が、身を滅ぼしながらこの世界に遺していったこと。その重要なメッセージを、大女優オードラ・マクドナルドさんが歌で代弁する。その姿は、祈りを捧げているようでもあります。

彼女たちの「祈り」「叫び」は、まさに今の時代こそ目を向けるべきだと私は思います。

その迫真の演技を、ぜひ劇場でご覧ください! ではまた次回お会いしましょう!

『ビリー・ホリデイ物語 Lady Day at Emerson's Bar & Grill』
2023年3月10日(金)より全国順次限定公開!

『ビリー・ホリデイ物語 Lady Day at Emerson's Bar & Grill』

youtu.be

── 愛に飢えても差別に負けない時代のカリスマ、ビリー・ホリデイを知らずして、人に伝わる“歌”は語れない。

史上初! トニー賞®全女優賞部門を6度受賞、アメリカの舞台エンターテイメント界において最多受賞を誇る、ブロードウェイ界の大スターで看板女優、オードラ・マクドナルドの代表作、そしてトニー賞®受賞作品!

ストーリー
時は1959年、舞台はフィラデルフィアのとある寂れたジャズクラブ。これから観客の面前で繰り広げられるのは、死を4ヶ月後に控えたビリー・ホリデイによる最後のパフォーマンスである。本作は、10曲を超える楽曲の数々に、辛辣で時にユーモラスな回想を交えながら、歌姫の姿とその音楽的世界観を魅力的に描き出していく。ニューオーリンズのカフェ・ブラジルで有観客上演された舞台を収録した「レディ・デイ・アット・エマーソンズ・バー&グリル」。6度のトニー賞に輝くオードラ・マクドナルドがジャズ界の伝説的な歌姫に扮し、歴史に残るパワフルなパフォーマンスを披露する。

トニー賞® 演劇主演女優賞(2014年)オードラ・マクドナルド
トニー賞® 演劇音響デザイン賞(2014年)スティーヴ・キャニオン・ケネディ

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配給:松竹 ©BroadwayHD/松竹
〈米国/2016/ビスタサイズ/90分/5.1ch〉日本語字幕スーパー版