大ヒットミュージカル『キンキーブーツ』が、2021年3月5日(金)より全国順次限定公開開始!今回は『キンキーブーツ』の凄さや大人気キャラクター ローラの魅力について迫ります。(文:宇田夏苗)

世界中で愛される『キンキーブーツ』の凄さ

今回上映される『キンキーブーツ』のカーテンコール、スクリーンに映るロンドン・アデルフィ・シアターの熱狂に包まれた観客とともに、筆者は心の中で「ブラボー!」と叫んでいた。印象的だったのは、客席の誰もがとびきりの笑顔だということ。それこそが『キンキーブーツ』が持つパワーなのだ。

2013年のトニー賞で年間最多13部門ノミネート。うちミュージカル作品賞、オリジナル楽曲賞を含む6部門の快挙を果たした本作の凄さとは一体何なのか?

©Matt Crockett

まず、この物語を描くにふさわしいクリエイター陣が顔を揃えたことが挙げられる。まず脚本は、トニー賞受賞者で俳優としても活躍するハーヴェイ・ファイアスタイン。

半自伝的な舞台『トーチソング・トリロジー』、日本でも再演を重ねるミュージカル『ラ・カージュ・オ・フォール』といった名作を生んできたハーヴェイは、自らゲイを公表。時代に先駆けLGBTQなどマイノリティーを題材にし、社会の問題点を描きながら、その作風は上質なユーモアと人間愛に溢れている。

作詞作曲を手がけた歌姫シンディ・ローパーは、『True Colors』をはじめ自分らしく生きることの大切さを音楽で、個性的なファッションで訴え続けてきたアーティストだ。本作では情感とポップさを併せもつ彼女の豊かな音楽性が炸裂!ミュージカルに初挑戦するにあたり、ミュージカル音楽を徹底的に学び、物語を伝える音楽を作り上げている。

演出・振付家のジェリー・ミッチェルもまた、本作にベストな人物だった。彼は本作同様、映画から舞台化された『ヘアスプレー』(2003)、『キューティ・ブロンド』(2007)などの大ヒット作を世に送り出している、現代ブロードウェイの売れっ子クリエイターだ。

実はジェリーとシンディは長年の知り合い。スポーツのようだと評される躍動感に満ちたダンスが好きなジェリーのために、シンディが用意したのは、本作の名シーンとなっている『エヴリバディ・セイ・イェー』だったとか。このナンバーが歌われる1幕ラストはセンセーショナルの一言。これについては後述しよう。

キンキーブーツってどんなお話?

『キンキーブーツ』のストーリーは実話がもとになっていることをご存知だろうか。1997年、ノーサンプトンの英国老舗の紳士靴メーカーが経営危機に陥り、起死回生を目指して女装趣味の男性向けの靴の製造を開始。それを取り上げたBBCのドキュメンタリー番組に着想を得て、2005年に映画化(英米合作)された。

画像: 映画「キンキーブーツ」(2005)より ©Buena Vista International.

映画「キンキーブーツ」(2005)より

©Buena Vista International.

モデルとなった靴工場は閉鎖の道を辿ったが、彼らのチャレンジ精神は映画、そしてこのミュージカルにしっかりと息づいている。映画化にあたっては、二人の魅力的なキャラクターが誕生した。老舗靴工場の跡取り チャーリーと、彼と工場の運命を変えるドラァグクイーンのローラだ。

父親の急死により、突然家業を継ぐことになったチャーリーの最初の仕事はリストラ。だが、工場を遊び場に育った彼は、街で偶然出会ったローラからヒントをもらい、人を切らずに工場を立て直す策として、ドラァグクイーン向けサイハイブーツ(=キンキーブーツ)の製造に乗り出す。

ローラはデザイナーを引き受けるが、外見も振る舞いもあまりに違うため、工場の人々、さらにはチャーリーとぶつかることに。しかし二人にはある共通点があった。父親が敷いたレールを避けて生きてきたチャーリーと、父親にありのままの自分を認めてもらえない悲しみを抱えたローラ。

実は、どちらも父の存在に悩み、けれど父親を深く愛していたのだった。二人が本音で心を通わせる1幕後半の『ノット・マイ・ファーザーズ・サン』は、数多あるミュージカルの中でも出色の男性デュエットだ。

みんなのヒーロー!パワフルでユーモア溢れるローラの魅力に迫る

起死回生に友情の物語、どれもシングルカットできるほど名曲揃いの『キンキブーツ』。さらにローラと言うキャラクターのカリスマ性が、作品を一段と普遍的かつ魅力的にしている。

画像2: ©Matt Crockett
©Matt Crockett

ショーアップされた登場から、存在の仕方自体がユニークで圧倒的。ドラァグクイーンとしての誇りを持ったローラが語る言葉には、嘘やごまかしがない上に、ユーモアがあり、真実を突かれてハッとさせられる。

過去の苦しみ、歩んできた人生を垣間見せながら、パワフルに歌い踊り「心を開いて受け入れることで世界は変わる」という、作品のテーマを体現するローラ。その毅然とした生き方は、私たちみんなのヒーローのようだ。

画像3: ©Matt Crockett
©Matt Crockett

今回上演されるロンドン版で、この大役、難役に挑んだマット・ヘンリーは、2016年ローレンス・オリビエ賞ミュージカル主演男優賞を獲得。受賞の理由は本作を観れば明らかだ。キレのいいダンス、ソウルフルな歌声、何より芝居に泣かされる。

と、まだまだ『キンキーブーツ』の魅力は語り尽くせないが、ここで前述の『エヴリバディ・セイ・イェー』の話を。

1幕ラスト、キンキーブーツを完成させたローラとドラァグクィーンたちが靴工場のベルトコンベアーに乗って歌い踊る「あのシーンだけで6ヶ月かかったんだよ」とジェリーが語っていたが、まさしくダンスと歌、感情がひとつの表現になったミュージカルの真骨頂である。ミュージカルファンは必見だ。

画像: 「キンキーブーツ」 youtu.be

「キンキーブーツ」

youtu.be

『キンキーブーツ』
2021年3月5日(金)より全国順次限定公開

東劇(東京)、シネ・リーブル池袋(東京)、109シネマズ二子玉川(東京)、MOVIXさいたま(埼玉)、札幌シネマフロンティア(北海道)、ミッドランドスクエア シネマ(名古屋)、なんばパークスシネマ(大阪)、神戸国際松竹(兵庫)、T・ジョイ博多(福岡)

配給:松竹 ©BroadwayHD/松竹〈英国/2018/ビスタサイズ/122分/5.1ch〉日本語字幕スーパー版

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