英国の劇作家ノエル・カワードは、その抜群のセンスから1900年代のイギリスではファッション・リーダー的な存在であった。ショーン・コネリーが『007』シリーズのジェームズ・ボンド役に初挑戦したときも、真っ先にカワードに着こなしの相談をしたそうである。そんなカワードの大ヒット喜劇が、いよいよ2022年3月11日(金)から全国順次限定公開される。(文:宇田夏苗)
カバー画像:『プレゼント・ラフター』より ⒸSara Krulwich

劇作家ノエル・カワードとは?

『プレゼント・ラフター』

ⒸSara Krulwich

ブロードウェイやウエスト・エンドの劇場から、選りすぐりの舞台をお届けする「松竹ブロードウェイシネマ」。次回作『プレゼント・ラフター』は本シリーズ初のコメディーであり、劇作家ノエル・カワード(1899-1973)の作品だ。演劇通の方なら、カワードと聞いただけで「これは観なければ!」と思う作家の一人だろう。

イギリス出身の彼は俳優、作詞・作曲家、映画監督などマルチに活躍した人物で、劇作家として数々のヒット作を世に放った。洗練された喜劇に定評があり、男女関係の機微をドライな笑いに転換するのは彼の得意とするところ。日本でも上演されている代表作の一つ『私生活 Private Lives』など、乱れた男女関係を描いても、人生の味わいと輝きが感じられ、見終えた後にじんわり幸福感が漂う作品は、時代を超えて私たちを魅了する。

カワードはLGBTQのアイコンとして、ファッションリーダーとしてポップカルチャーに影響を与えた人でもある。また、喜劇俳優のチャップリンから英国首相チャーチルまで、幅広い交友関係でも知られていた。

スター俳優ギャリーが海外ツアーに出かけようとしていた矢先、訪問客が次々にやってきて騒動が巻き起こる『プレゼント・ラフター』は、色鮮やかな人生を謳歌したカワードならでは、軽妙なやり取りの中に、人生の苦さと甘さが絶妙に入り混じった傑作だ。

名優ケヴィン・クラインの魅力が全開!

『プレゼント・ラフター』

ⒸSara Krulwich

おかしな訪問者たちに翻弄されまくるギャリー役に挑んだのは、ケヴィン・クライン。本作での演劇主演男優賞を含めて3度のトニー賞に輝き、クライムコメディー『ワンダとダイヤと優しい奴ら』(1988)でアカデミー賞助演男優賞に輝いている名優だ。

都会的なルックスとシリアスからコメディーまでをこなす、卓越した演技力を兼ね備えたクラインにとって、ギャリー役はまさに出会うべくして出会った役。ブロードウェイ上演時の各紙の絶賛ぶりが、それを証明している。

ケヴィン・クラインはノエル・カワードを演じるために生まれてきたようなものだ。ウィットに富んだ言葉の掛け合い、華麗な身振り手振り、頭からつま先までのボディランゲージを駆使して、クラインはうぬぼれた利己主義と迫りくる憂鬱の狭間で、観客を奪わなければ無力な甘やかされた男の子のような人物を描き出す
― Hollywood Reporter ―

クラインの軽快な手さばきは、セント・ジェームス・シアターの観客の拍手喝采に値する
― NY Daily News ―

ケヴィン・クラインがいかに全身で表現する優れたコメディアンであるかを、私たちが再認識する時が来たようだ。

ノエル・カワード作「Present Laughter」のリバイバル版で、クラインは2度のトニー賞とアカデミーに輝いたウィットに富んだ精力的かつ大胆な演技で、幸福な気分にさせてくれる。
―The New York Timesー

何よりクラインは、スター俳優のギャリーを演じるにふさわしい華と色気の持ち主である。女性たちに言い寄られても嫌味にならず、ギャリーのアタフタする心模様が台詞はもちろん、微妙な全身の動きから伝わってきて、笑いが込み上げるとともに、愛おしくなってしまう。

劇中でギャリーがピアノを弾くシーンに、クラインがミュージカルの大作曲家コールポーターを演じた『五線譜のラブレター』(2004)での見事なピアノ演奏を思い出す人もいるかもしれない。こちらも俳優クラインの魅力が満載でおすすめだ。

シチュエーション・コメディーの楽しさを味わう

舞台となるのは1900年代前半のイギリス・ロンドンのギャリーの邸宅だ。セットは一つ、ワン・シチュエーションであるところに、腐れ縁の元妻、恋仲の女流作家、ギャリーに好意を持つ男性作家、可憐に見えてひと癖ありそうな女優志望の若い女性たちがひっきりなしにやってきて、ギャリーはどんどん窮地に追い込まれていく。

それをなんとか打破しようと試みて、ますます困った展開になっていく芝居のスタイルは、“シチュエーション・コメディー”といわれるもの。さらに『プレゼント・ラフター』にはどんでん返しも待っている。

一見大きなドラマがないようでいて、実はそれぞれの心中は大きく揺れ動いている芝居の面白さを最大限に演じてみせてくれるのは、ブロードウェイ版演出のモリッツ・フォン・スチュエルプナゲルが「全員が天才喜劇役者」と称賛する実力派たち。

そのやりとりは文句なしにおかしく、これぞエンターテインメント!と思える『プレゼント・ラフター』が日々の疲れも悩みも軽やかに吹き飛ばしてくれるはず。ぜひ劇場でご堪能あれ!

プレゼント・ラフター
2022年3月11日(金)から東劇(東京)、なんばパークスシネマ(大阪)、
ミッドランドスクエア シネマ(名古屋)ほか全国順次限定公開
配給:松竹

松竹ブロードウェイシネマ「プレゼント・ラフター」

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ジェームズ・ボンドの相談役!? LGBTQのアイコン、英国史上初、“時代を創った”究極のアーティスト、ノエル・カワード。劇作家でもあるカワードの大ヒット喜劇を、アカデミー賞®️×トニー賞®️W受賞のケヴィン・クラインと『アベンジャーズ』のコビー・スマルダーズが、ニューヨークのブロードウェイから皆さまへお贈りします!

【ストーリー】
舞台はイギリスのロンドン、1900年代前半。ギャリーはミドルエイジの大人気喜劇役者。腐れ縁の(元?)妻、自分の事を親よりも知っている秘書、恋仲の女流作家と、ギャリーに好意を持つ男性作家に若い女性―。今日も個性的な面々に囲まれながら、本心を言い出せないギャリー。果たして、ギャリーは最後まで“プレゼント・ラフター(今の笑い)”を演じきることが出来るのか!?

配給:松竹
©BroadwayHD/松竹
〈米国/2017/ビスタサイズ/136分/5.1ch〉 日本語字幕スーパー版

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