1959年フィラデルフィア、とある寂れたジャズクラブ。ジャズ界のカリスマ的シンガー、ビリー・ホリデイのキャリア、そして人生そのものの晩年に行われたこの一夜限りのパフォーマンス。ユーモアと哀愁に満ちたこのステージから垣間見えるものとは…。
本作によって6度目のトニー賞受賞を達成した主演のオードラ・マクドナルド。2015年にはオバマ元大統領より国民芸術勲章も受勲している。大女優オードラ・マクドナルドの主演作『ビリー・ホリデイ物語 Lady Day at Emerson's Bar & Grill』いよいよ2023年3月10日(金)より全国順次限定公開!(文:宇田夏苗)
カバー画像:『ビリー・ホリデイ物語 Lady Day at Emerson's Bar & Grill』より ⒸEvgenia Eliseeva

ビリー・ホリデイとは何者なのか?

画像1: 『ビリー・ホリデイ物語 Lady Day at Emerson's Bar & Grill』 ⒸEvgenia Eliseeva

『ビリー・ホリデイ物語 Lady Day at Emerson's Bar & Grill』
ⒸEvgenia Eliseeva

音楽界には “歌姫” “伝説的”と賞されるシンガーが存在する。しかし、ホリデイのように“偉大”と評される人は稀だ。何が凄いのか。

壮絶かつ闘い抜いた人生

1915年に米・ボルチモアに生まれたホリデイは、親族の暴力や性暴力の被害に遭うなど過酷な幼少期を過ごしたという。やがてNYのナイトクラブで歌うようになり、レコード会社のプロデューサーに才能を見出される。ちなみにホリデイは白人オーケストラと共演した最初の黒人歌手でもあった。

そしてホリデイの代名詞といえば名曲「奇妙な果実」だ。アメリカ南部の人種差別の真実を告発するこの曲は、衝撃的な内容からレコード会社に録音を拒否されるも小さなレーベルから発売され、彼女の渾身の歌声は世界を揺れ動かした。

ホリデイの人生についてここでは語り尽くせないが、一つ言えるのはたんに成功を収めた大歌手ではないということ。社会に訴え続けたシンガーだったのだ。

私生活では薬物とアルコール依存と闘い続けた。薬物に手を出すようになったのは、愛した男たちの影響とも言われている。

今回公開される『ビリー・ホリデイ物語 Lady Day at Emerson's Bar & Grill』はホリデイが44歳で亡くなる4ヶ月前に行った、一夜限りのステージという設定。もともとは1986年にオフ・ブロードウェイで初演され、2014年にオン・ブロードウェイで開幕すると多数のメディアが10点満点中星9つを与え、大絶賛を浴びた。

主演はブロードウェイが誇る名女優オードラ・マクドナルド。当時のレビューをご紹介しよう。

よく「ホリデイは本物の模倣やカバーはできない」と言われる。確かにそうかもしれない。しかしロニー・プライスの演出によって、マクドナルドはメリル・ストリープのように歌声も肉体的にも完全に変身を遂げ、高度に演劇的でありながら楽にパフォーマンスしているように見えるのだ。
―amNewYork―

(オードラ・マクドナルドは)スモーキーで息の長い歌声、20世紀前半の厳しい生活を示唆するような態度でこの役を表現する。彼女の身体的な表現は注目に値する。
―Entertainment Weekly―

12曲以上の歌を通して、マクドナルドはホリデイの独特のスタイルである悲しげな音、エキセントリックなフレージング、小さな声のキャッチボールをすべて捉えている。マクドナルドの解釈を印象深いものにしているのは、役者としての彼女の並外れた感性である。
―Variety―

こうした劇評、さらに観客の熱狂を受け、同年12月にニューオリンズのジャズクラブで再演。今回の映像はその時の模様を収録したものだ。

画像2: 『ビリー・ホリデイ物語 Lady Day at Emerson's Bar & Grill』 ⒸEvgenia Eliseeva

『ビリー・ホリデイ物語 Lady Day at Emerson's Bar & Grill』
ⒸEvgenia Eliseeva

画像: 伝説的歌手×ブロードウェイの名女優 ジャズ史に残るビリー・ホリデイの歌と人生がここに!【松竹ブロードウェイシネマコラムvol.9】

映画で目撃! ホリデイの凄まじい人生

画像: ダイアナ・ロス演じる「ビリー・ホリデイ物語/奇妙な果実」(1972)

ダイアナ・ロス演じる「ビリー・ホリデイ物語/奇妙な果実」(1972)

ビリー・ホリデイの人生は、映画監督にとっては描かずにいられない題材のようだ。これまでに様々なアプローチで映画化されている。

2021年公開の『ザ・ユナイテッド・ステイツvsビリー・ホリデイ』は、「奇妙な果実」を歌うことを止めようとした連邦政府御命令に反抗したことが、彼女の死につながったのでは?というサスペンス。Black Lives Matterにつながる“公民権運動”の初期に、彼女が息を吹き込んだという知られざる事実を描いた物語は、人間ホリデイの強さと奥深さに気づかせてくれる。映画の評価は高く、主演のアンドラ・デイは本年度ゴールデングローブ賞(ドラマ部部門)主演女優賞に輝き、アカデミー賞主演女優賞にノミネートされている。

1972年の『ビリー・ホリデイ物語/奇妙な果実』(1973年日本公開)では、ダイアナ・ロスが演技未経験ながらホリデイを体現。当時の映画誌「スクリーン1973年5月号」では、以下の紹介をしている。

これまでにもたびたび企画されたビリーの伝説も、彼女が黒人であるという理由で実現されなかった。だが、有名黒人アーティストをかかえるモータウン・レコード社が“シュープリームス”のリード・ソロから独立したダイアナ・ロスを起用し、ここに完成させた。初めての映画出演で迫真の演技を見せるダイアナ・ロスは、本年度アカデミー主演賞候補となった。

ホリデイを演じた女優がきまって輝きを放つのは、ホリデイを演じるには並外れた歌唱力と演技力が求められるからだろう。

ブロードウェイが賞賛するオードラ・マクドナルドの新境地

画像3: 『ビリー・ホリデイ物語 Lady Day at Emerson's Bar & Grill』 ⒸEvgenia Eliseeva

『ビリー・ホリデイ物語 Lady Day at Emerson's Bar & Grill』
ⒸEvgenia Eliseeva

『ビリー・ホリデイ物語 Lady Day at Emerson's Bar & Grill』の主演オードラ・マクドナルドは、ブロードウェイを代表する大スター。本作で史上最多6度目のトニー賞を受賞している。名門ジュリアード音楽院で声楽を学んだ彼女の歌声は壮大と評され、オペラでも活躍。ホリデイの歌唱スタイルとは異なるのだが、回想を交えて10曲以上を歌い、ホリデイが憑依したかのような歌の力と存在感から目が離せない。

中でも生涯忘れられない、と感じるシーンは「奇妙な果実」だ。マクドナルドの歌を通して歌詞の情景が浮かび、ホリデイが辿ってきた壮絶な人生が、歌に込めた思いが何層にも折り重なり、心を揺さぶられる。

さらに実際に観客を前にしたステージを収録しているだけに、息を呑む観客の空気が伝わってくる。

この親密な雰囲気は、松竹ブロードウェイシネマでしか味わえない。生の舞台では見られない細かな表情をとらえた映像を通して、“ホリデイがそこにいる”と感じさせてくれる、まさにステージと映像の良さが結実した1作。松竹ブロードウェイシネマの魅力をあらためて実感できるはずだ。

『ビリー・ホリデイ物語 Lady Day at Emerson's Bar & Grill』
2023年3月10日(金)より全国順次限定公開!

画像: 『ビリー・ホリデイ物語 Lady Day at Emerson's Bar & Grill』 youtu.be

『ビリー・ホリデイ物語 Lady Day at Emerson's Bar & Grill』

youtu.be

── 愛に飢えても差別に負けない時代のカリスマ、ビリー・ホリデイを知らずして、人に伝わる“歌”は語れない。

史上初! トニー賞®全女優賞部門を6度受賞、アメリカの舞台エンターテイメント界において最多受賞を誇る、ブロードウェイ界の大スターで看板女優、オードラ・マクドナルドの代表作、そしてトニー賞®受賞作品!

ストーリー
時は1959年、舞台はフィラデルフィアのとある寂れたジャズクラブ。これから観客の面前で繰り広げられるのは、死を4ヶ月後に控えたビリー・ホリデイによる最後のパフォーマンスである。本作は、10曲を超える楽曲の数々に、辛辣で時にユーモラスな回想を交えながら、歌姫の姿とその音楽的世界観を魅力的に描き出していく。ニューオーリンズのカフェ・ブラジルで有観客上演された舞台を収録した「レディ・デイ・アット・エマーソンズ・バー&グリル」。6度のトニー賞に輝くオードラ・マクドナルドがジャズ界の伝説的な歌姫に扮し、歴史に残るパワフルなパフォーマンスを披露する。

トニー賞® 演劇主演女優賞(2014年)オードラ・マクドナルド
トニー賞® 演劇音響デザイン賞(2014年)スティーヴ・キャニオン・ケネディ

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配給:松竹 ©BroadwayHD/松竹
〈米国/2016/ビスタサイズ/90分/5.1ch〉日本語字幕スーパー版

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