ブロードウェイ版『ロミオとジュリエット』や『シラノ・ド・ベルジュラック』の演出を手掛けた演出家デヴィッド・ルヴォー氏へスペシャルインタビュー!作品に対する想いや制作の裏側など、魅力的なお話をたくさん伺いました。シェイクスピアへの想いとは?作品づくりのインスピレーションの源とは?その他主演を務めたオーランド・ブルームとの関わりや日本に対する考えなどもあわせてお届けします。(取材日:2019年 松竹ブロードウェイシネマスタッフ)
カバー画像:演出家 デヴィッド・ルヴォー ⒸShochiku Broadway Cinema

シェイクスピアが現代人に与えてくれるもの

── 現代の演劇業界におけるシェイクスピア作品の位置づけについて、自身のご意見をお聞かせください。

確かに「シェイクスピア作品を繰り返し上演し続けることに意味があるのか?」という意見も耳にします。生存している作家は多くいるわけですから、もちろんそれは分かります。当然ながら、現代に生きるたくさんの作家がいます。

しかし、シェイクスピアは私たちが住んでいる世界を創造したとも言えるのです。だからシェイクスピアを無視することは、シェイクスピアが私たちに与えてくれた基本的なツールを無視すること、それを理解しないことになるのです。

例えば、私たちは物事の考え方もシェイクスピアから学んでいると言えます。シェイクスピアの作品に直接的には触れていない人でさえ、実際には気づかぬうちにシェイクスピアに影響を受けているのです。

簡単に言うと、シェイクスピア作品には2つの相対する事象のバランスを描いた物語が多く存在します。そして相対する2つを一緒にした時に、新しいものが生まれます。

例えば「生きるべきか、死ぬべきか」という有名な一節は、まさにバランスを問うものであり、生と死という2つの事象からの選択です。2つはまったく正反対のものです。

この命題から私が考えるのは、「正反対のものからどのような新たな事実や真実が出てくるのだろう?」ということです。相対する2つのものの間で議論するという手法はシェイクスピア作品の大きな特徴ですね。

── なるほど。

私は、シェイクスピアはシェイクスピアの演劇を観に行くことを人々に強いべきとはあまり思いません。優れた仕上がりの劇でなければ非常に退屈でしょうから。

ただ、自分たちの住む世界を理解するための手段として、私たちが驚くほどシェイクスピアに恩恵を受けているのは事実です。だからシェイクスピアの劇は何度繰り返し見てもいいし、何度も探究しようと試みてもいいのです。

それに、いろんな意味で、シェイクスピアの世界に広がる可能性のエネルギーは他の作家、つまり新しい作家たちに希望を与えると思うのです。

── 私もそう思います。

シェイクスピアはこういった点で独特です。また、さまざまな国の多くの人々が、シェイクスピアをまるで自国の作品のように感じています。

例えばドイツではシェイクスピアはドイツ人作家、日本では日本人作家のように思われています。シェイクスピア作品には、誰もが特別なつながりを感じられる何かがあり、そのつながりが示されています。英国人にとって蜷川幸雄の『マクベス』は驚きでした。

彼の解釈は、完全にシェイクスピア的でありながら完全に日本的なのです。あのような演出は蜷川にしかできなかったでしょう。また、黒澤明の『乱』は『リア王』に基づいた作品ですが、これも非常に深い洞察力が発揮された名作です。このように、シェイクスピアは私たち皆にとっての集合場所なのです。

ルヴォー氏が捉える日本像と舞台の魔法を求める人たちへ伝えたいこと

── その通りですね。ご存じの通り、日本では多くの人がルヴォー氏のことを尊敬しており、ルヴォー氏のようになりたいと思っています。演出を手掛けた劇を観た日本の観客には、どのような反応を期待しますか?

それはいい質問ですね。私は何年も日本で舞台作りに携わっていますが、日本の観客は大好きですよ。非常に思慮深い人々だと思います。

確かに、日本の観客は声に出してはっきりと自分の考えを表さないという人もいます。それも真実ではありますが、それは日本の観客がよく考え、感じているからなのです。

日本の観客は非常に深いところまで読み取ります。うわべだけのリアクションを見せるのとは違います。

だから今回の『ロミオとジュリエット』にもいくらかの楽しみと魅力を感じてほしいですね。それから『シラノ・ド・ベルジュラック』もぜひ観てください。

『シラノ』は本当にロマンチックな劇です。実際、強いて言えば、私のこれまでの作品の中ではこの2つの劇が圧倒的に突出してロマンチックな劇ですね。

── すばらしい作品ですよね。『シラノ・ド・ベルジュラック』も、松竹ブロードウェイシネマにて上演する予定です。おそらく1~2年の間に予定されています。私は作品を観てまた泣いてしまいました。(インタビュー:2019年)

画像: 『シラノ・ド・ベルジュラック』 ©Joseph Sinnott, Thirteen/WNET

『シラノ・ド・ベルジュラック』

©Joseph Sinnott, Thirteen/WNET

この2つの劇は、想像力の可能性と想像力のパワーを示す一種の魔法だと私は本当に思います。自身の想像力を大切に育むことで、奇跡を起こすこともできるのです。それが私たちを人間的に成長させます。

『ロミオとジュリエット』と『シラノ』の両方で示しているのは、もちろん言葉の力、私たちを別世界へといざなう言葉の力も示しています。この2作品では、言葉が重要視されているからです。

ロミオとジュリエットが会うとき、2人はソネット形式の14行詩でやり取りします。言葉と想像力を共有し、その想像力に興奮するあまり2人とも詩を作ることができるのです。『シラノ』では美しいラブレターが書かれます。だから私は、この2つの劇はどちらも言葉の祝祭のようだと思うのです。

── おっしゃる通りですね。

日本でも言葉がとても大切だと思うので、私は言葉についてよく考えます。今のような状況では特に。

私の印象では、日本語は変化の速度がとても速い言語です。現代の若者が話す日本語は、20~30年前に私が初めて日本に来た頃から随分変わりました。まったく違います。

女性も昔とは違う日本語を話します。言葉がとても大切だと思うのは、それがアイデンティティーの問題だからです。

忘れてはならないのが、シェイクスピアは物語を書きながらさまざまな意味で英国人のアイデンティティーも創出していた、ということです。

シェイクスピアが登場するまでは詩といえばイタリア語かフランス語で書かれており、英語で書かれた詩はありませんでした。だから私はシェイクスピア作品で繰り広げられる言葉の祝祭が大好きなんです。

私が興味を持っている作家で、最高に魅力的でありながら様々な意味で矛盾に満ちた日本人作家だと思うのは、三島由紀夫です。

ご存じのとおり、三島はシェイクスピアや18世紀ヨーロッパ文学に造詣が深く、彼が育った時代の後、つまり戦後に復興を遂げつつあるこの国にとっての言葉の重要性を認識していました。

私は特に『ロミオとジュリエット』、そして『シラノ』もまた別の意味で、若者に言葉を返す手段だと思っています。「言葉を使ってこんなこともできるんだよ。言葉の可能性はすごいでしょう」と伝えたいですね。

── 私もそう思います。日本では、最近若者を中心にミュージカルを観に行く人が増えている傾向です。しかし、劇場の将来にとっては演劇も非常に重要ですよね。なので日本の観客に向けて何か、特にミュージカルだけを観に行く人々に向けてメッセージをお願いできますか?演劇にも行くべきだと思うので…

面白いことにミュージカルは後から作られた形なので、多くの点で『ロミオとジュリエット』や『シラノ・ド・ベルジュラック』のような演劇のナレーションや語りのテクニックを借りているのです。

私が「魔法」という言葉を使うのはそこなのですが、優れた劇を観ると、ミュージカルとまったく同じような旅ができるのです。作品を作る時に私が音楽をとても大切にしているのはそういう理由からです。

ミュージカルと同じような形で音楽を使うわけではありませんが、例えば私が東京で演出を担当した最近の3つの舞台にはすべて意識的に音楽を使いました。

近松作品から三島の『黒蜥蜴』、そして音楽劇『道』に至るまで、演劇自体が観客を別世界へ誘うべきであるという考えに基づいています。演劇は淡泊なものではなく、ある種のマジックです。ミュージカルの魔法が好きな人は、初めは『ロミオとジュリエット』などの劇から観ることをオススメします。

── なるほど、私もそう思います。

なぜなら『ロミオとジュリエット』は言葉の音楽だからです。とても美しい音楽です。

── 確かにその通りですね。本日はお忙しいところありがとうございました。

こちらこそありがとうございました。

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画像: ブロードウェイ版『ロミオとジュリエット』 youtu.be

ブロードウェイ版『ロミオとジュリエット』

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画像: シラノ・ド・ベルジュラック youtu.be

シラノ・ド・ベルジュラック

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松竹ブロードウェイシネマ アンコール上映詳細について

上映期間:2021年8月13日(金)〜26日(木)
上映劇場:東劇(東京都中央区築地4-1-1)
アクセス:東京メトロ『東銀座駅』6番出口より徒歩1分

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配給:松竹
ⒸBroadwayHD/松竹
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